2009.10.21 Wednesday


――ふと目が覚める


――朝 5時・・・・・・・


まだ こんな時間



この館で最後の日



再び眠りにつく気にはなれず
ベッドから足を投げ出して寝ているコゼットを横目に
早めの部屋の整理をすることにした


・・とはいっても荷造りはほとんど済んでいる

あとは、ほんの少しの
身の回りで使う日用品や服を詰めるだけ


この館に居た時間は
思い出を振り返るほどそんなに長くはないし

とくに思い入れや感慨もない



ただ・・・・

まったく何も感じないといえば嘘になるかもしれない



することもなく廊下へ出ると

鍵の束とすこしの書類を抱えたニコラに出会った



「ミネット!おはよう、随分はやいんだね」

「なんだか目が覚めてしまって・・ニコラも、こんな朝から仕事?」

「うん、最近はリュシアンさん、調子が悪いみたいだから。
 僕が代わりに朝礼の準備や館内の点検をしているんだ

 ・・ミネットは、今日・・・お屋敷に戻るんだよね」

「そう。荷造りも済んだし、やることもなくて」



・・・・と そこまでで、会話が続かなくなった



いつもなら、「じゃあ」という言葉で会話を切ることも出来る

でも、今日はなぜかそういう手段をとろうと思えない自分がいた


<今日で最後。>


特別なことじゃないけれど
なにか伝えたい


ただ 普段あまり主以外の人間と会話を交わさないせいか
こういうとき、どんな言葉をかけたら良いのかわからない。


いつの間にか沈黙はかなりの時間が経過し
ずいぶん言葉に迷っている自分に気が付いた

・・珍しいのね。

自分がすこし可愛らしく思えたその時、



「今までありがとう」



口を開いた彼は、すこし切なげな
優しい笑顔を浮かべていた。


その言葉をかけられると 自分の口も自然と動いた



「ニコラも、ありがとう


 ――――元気でね。」






この館の空気は、

重くて
冷たくて
淀んでいて

最後まであまり好きにはなれなかった。



けれど・・・・



最後にほんの少しだけ、

あたたかい気持ちを見つけた気がした。



By 侍女・ミネット | Time : 05:30 | CM : 0 | TB : 0
2009.10.08 Thursday


エグレッタ・サクラ

どことなく息苦しい
重く淀んだ空気をもつ館


ここに初めて足を踏み入れてから
まだそんなに長くの月日を過ごした訳ではないけれど

今この館が大きく転機を迎えようとしているのは

私にも感じられる



――― 一使用人の結婚式。


それだけではすまない何かを予感するのは・・・

何かを決意した主の横顔

影を感じさせる従僕

思惑有り気な愛人の顔

密かに何かを企む秘書の笑み

決意を秘めた執事の表情

そして やはりどこか主に似ている
あの方のいつもとは違う横顔



―― ヒントはあらゆるところに散りばめられているのかもしれない



そのとき、私は・・・・・・・


 
 


式は数日後


心の波が止まないのは
近くにある 大きな月の引力のせいかもしれない
 
 
  
By 侍女・ミネット | Time : 09:30 | CM : 0 | TB : 0
2009.09.20 Sunday

 
式が近づき
本来ならば重苦しい空気が淀むこの館も
少しずつ
少しずつ
せわしない空気に呑まれはじめている


行き交う使用人たち
戻ってきた使用人
新しい使用人
進行の段取りの打ち合わせ
館内の装飾
各々の衣装の採寸



私はそれを―

ただ眺めている


何も感じはしない
何も想いはしない



マルグリート様が、何の心がわりか
再びマクシミリアン様と
外出を共にされるようになってからは

特にやるべきこともなく
手持ち無沙汰の日々を過ごしている


他の使用人のように
なにか館の仕事を言いつけられることもなく
私も
コゼットも
それぞれに好きなことをしている



式は来月

なにも感じはしないのに
なぜか胸がさわいでいる



ただの同僚二人の結婚式


なのに

なぜか主の横顔を見るたびに

自分を取り巻く今のこの景色が
なにか
大きく
変わりそうな予感―――



今はただ、あの人の近くで日々を過ごせる

それだけに心が安らいでいる
 
 
 
By 侍女・ミネット | Time : 11:00 | CM : 0 | TB : 0
2009.08.21 Friday


黒と赤のゴシック調で彩られた館―


あの方が作りだした柔らかなヴェールの上から
薄桃色のレースを一枚かけたような

そんな雰囲気が漂っている




結婚―


するのだという


幸せそうにはにかむ彼女


おめでとう


祝福の言葉を口にしながら
心から喜べない自分がいることに気づく



結婚って何・・?


恋愛のゴール

二人の未来

愛のかたち


それとも、契約?



結婚することは本当に幸せなのかしら?


この世で唯一人だと思って一緒になるのに
別れてしまうのは何故?




私は―


何も望まない


望んではいけない



今はただあの方と同じ時を過ごせることを幸せに思う




By 侍女・ミネット | Time : 10:49 | CM : 0 | TB : 0
2009.07.29 Wednesday


柔らかなヴェールがこの館を包み込んでいる―



マルグリート様と共にこの館にやって来て
早五か月・・


どこか噛み合わない不協和音のような雰囲気を
一新したのは、あの方の穏やかな笑顔



ガスパール・ウラジミール・ヴェルニエ伯爵



あの方がエグレッタ・サクラを訪れて以来
不穏な空気が少しずつ浄化されていく
気がするのは、私の気のせいかしら


コゼットに話したらきっと笑われてしまうかも
しれないけれど


私はヴェルニエ伯爵家にお仕えしているのが好きだった



いいえ、違うわね


あの方のお傍にいるのが好きだったんだわ


毎朝、優しくお声をかけてくれるあの方に
ただの社交辞令かもしれない、あの笑顔に
何度救われたことか・・


奥様を・・そして、マルグリート様を・・

少しだけ羨ましいと思う



久しぶりにミネットの淹れてくれる紅茶が飲みたい


努めて無表情に「はい」とお答したけれど
そんな一言にさえ揺れ動くこの心を
見透かされているようで・・


お茶の準備をしながら
小さく溜息をついた―
By 侍女・ミネット | Time : 12:56 | CM : 0 | TB : 0
2009.03.05 Thursday


久しぶりの悪夢で目が覚めた―


嫌な汗を背中に感じながら
ふと見上げると、見知らぬ天井がそこにはあった


そう・・

ここは、エグレッタ・サクラだったわね


どこからか吹き抜ける風が
館を通り抜ける瞬間
赤子の泣き声のような不気味な音を立てる


寒々しい石壁と黒ゴシック調の調度



コゼットは気味が悪いと言っていたけれど
今の私にとって、これ程しっくりくる館はないかもしれない



マルグリート様にお仕えして、どのくらいになるかしら?


たいていのことでは驚かなくなったけれど
いきなり、この館の主になるからついて来いと言われた時には
正直、驚いた・・・


主人のことを悪く言いたくはないけれど
マルグリート様をここの主にしたハウエル家当主は
かなり浅はかだと思う

それとも、相当、器が大きい方なのかしら・・?


いずれにしても、しばらくの間はこのエグレッタに
住むことになる


いつか

その日が来るまでは

囚われの身として、おとなしくしていましょう



その日が来るまでは・・・
By 侍女・ミネット | Time : 20:42 | CM : 0 | TB : 0

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