2011.11.07 Monday


 ラ・レーヴ・デ・パピヨン

あの蝶の館から戻って数ヶ月。

それでも、僕の脳裏からは、あの笑顔が離れません。

「マリアンヌ様…」

お久しぶりにお会いした、あの方は
すっかりお体も良くなっていたご様子。

良かった。
本当に……。


「男の子は、簡単に泣いたらダメなのよ?」

はい、マリアンヌ様…!

僕、もっと頑張らなくちゃ。

マリアンヌ様におつかえするのに、相応しい人間になれるように。

もっと、沢山のことを学んで
立派な従者にならなくちゃ…!


エグレッタ・サクラ……

ここでお仕えするようになって、だいぶ時間が流れたなぁ……

マリアンヌ様と初めて訪れたこと。
ミシュリーヌ様のこと。
リュシアンさんのことに、カミーユさんやヘイリーさんのこと。

目を閉じると、走馬灯のように蘇る。

けど…

ここにずっと居たんじゃダメだ。

もっともっと、沢山のこと、学ばなくちゃ!



……ありがとう、エグレッタ・サクラ

By 従者・セルジュ | Time : 02:38 | CM : 0 | TB : 0
2011.02.07 Monday


かさっ

一番上の、小さな鍵付きの引き出しを開けると、
便箋が何枚か、ゆっくりと床に落ちた。

書きかけの手紙。
あの方への……

ゆっくり拾い上げながら、続きの文を考える。
けど……

しばらく、返事は来てない。

お身体が、良ろしくないのかな……
何かあったのかな……
それとも
僕のこと、忘れてしまったのかな……

い、いや! そんな風に考えちゃ駄目だ、セルジュ!

マリアンヌ様がエグレッタサクラを出てから、だいぶ経つ。
あっという間で、いろんなことがあったけど
あの方の居ない毎日は、なんだか色あせたみたい。

まるでお人形のように綺麗な、マリアンヌ様。
猫みたいに、悪戯っぽく笑うお顔。
全部、全部、鮮明に覚えてる。

きっと、一段とお美しくなられているだろうなぁ。

神様……
早く……
早く、あの方のご病気が良くなりますように。
 


「セルジュ、ちょっといいかしら」

扉の向こうから、クローディアさんの呼ぶ声。
僕は返事をして、慌てて手紙をしまう。

扉を開けると、穏やかな笑みを浮かべたクローディアさん。

「セルジュ、お願いしたいことがあるの。」

はい、え…?
ラ・レーヴ・デ・パピヨンで、パーティーがあるんですか。
それに、マックス様もご招待された……えっ?
ぼ、僕も、お手伝いに、ですか?!
は、はい、すぐ仕度をします!


うわぁ……ひ、久しぶりのパピヨン……

あの、悪戯王子のマイケル様を思い出す。
ど、どうしよう
無事に、帰ってこれるかなぁ……
い、いや、きっとマイケル様だって、大人になられて……
き、きっと大丈夫!
僕だって、少しは成長したんだから……!

どう言い聞かせながら、ふと、あのときのパーティーを思い出す。
また…
また、マリアンヌ様も、素敵なパーティーにいけるようになりますよね…?
元気になって、綺麗なドレスを纏って……

ね、神様……

By 従者・セルジュ | Time : 01:42 | CM : 0 | TB : 0
2010.03.08 Monday



まだ、信じられないんです。

リュシアンさんが……

この、エグレッタサクラを去るなんて……


誰よりも早起きして、
完璧に仕事をこなす、リュシアンさん。

いつも厳しくて
時計の針よりも正確な、リュシアンさん。

とても物知りで、博識で……

お説教には、いつも本の一ページの様な
知識を添えるリュシアンさん。


もうそのお姿を見ることはないんですね……。


お屋敷を去る、やせ細った背中。
僕の知ってるリュシアンさんとは違って見えた。




僕……

まだ、一人前になってないんです。




もっと教えて欲しいことが
たくさんあるんです……

いつも失敗ばかりして、怒られてばっかりだったけど
僕……僕、リュシアンさんのこと、好きでした。


たくさんのことを教えてもらって、一人前になって
あの方に……あの方に、ついていきたくて……




マリアンヌ様と、エグレッタサクラに来てから
どのくらいの月日が流れたんだろう。


いつの間にか、僕は
たくさんの方たちを見送った気がします。


ああ、そうだ。
このことをカミーユさんにも、お伝えしよう。


引き出しにしまってある白い便箋を取り出す。

カミーユさんたちは元気かなぁ……。

By 従者・セルジュ | Time : 15:00 | CM : 0 | TB : 0
2010.01.31 Sunday


クローディアさんに頼まれた郵便物を
スヴェンさんにお届けする。
これが済んだら、次は――……

ふう。

一息ついて
ふと、足を止める。


相変わらず、咲き誇るピンク色のバラ園。

あれ……

ここから見える空は
こんなに青く見えたっけ……


前はもっと、灰色だと思ってた。


何かが一つ、変わるだけで
こんなにも 見え方が変わるのかなぁ……


あの方にも、この綺麗な空を見せてあげたいな。

――今の
このお屋敷をみたら
あの方は
何て言うだろう。


……

いけないっ。
まだまだ、やらなきゃいけないことが
たくさんあったんだ!!

これじゃあ、リュシアンさんに叱られちゃうよ!
なんだか、ニコラさんも大変そうだし……
ハリーさんの姿は、見当たらないし……


駆け出して
もう一度、バラ園を見る。

束の間の魔法。
もう少しだけ、
僕はこのままがいいなぁ……

By 従者・セルジュ | Time : 15:00 | CM : 0 | TB : 0
2010.01.19 Tuesday


黒く、冷たい廊下。

厳かなお屋敷の中に
ふわりと香る、甘い香り。

その香りだけで、どこか、このお屋敷の
雰囲気を和らげてくれる気がしました。


ヌベール・キュイジーヌのパティシエさんが
エグレッタサクラに来てくれたんです!

マクシミリアン様が、
パーティーに行けない僕たちに使用人にも…
…って。

感激です!


アリーヌさんの作ってくれたお菓子。

見た目はとてもシンプルだけど、
口に入れると、チョコレートと
コーヒーのクリームがとろけて…

甘くて、でもほろ苦くて…
とにかく、すごく美味しいんです!


でも…

ハリーさんに笑われてしまいそうだけど
僕にはちょっと大人な味かも…


って、思っていたら、

アリーヌさんはこっそり僕のお皿に
真っ白な生クリームを乗せてくれたんです。

そうしたら、コーヒーの苦味が和らいで
とても食べやすくなりました!


この方が、カミーユさんたちの
ウェディングケーキも作られたんですね。
カミーユさんたちのウェディングケーキ…
僕も食べたかったな…。


…カミーユさんたちは、お元気でしょうか…?


い、いや、まだまだ一人前にはなれないけど
僕だって、できることを頑張らなくちゃ!!


あれからだいぶ経つけど、あの日から
僕は何度も何度も見てきたものを、見なくなった。

何度も、何度も怒られて
何度も、何度も謝って
いつも
目に映るのは、黒い足元。


リュシアンさん…


白いお皿に乗せられた、切り分けられたケーキに
きらりと磨かれた銀の小さなフォークを添えて…
ケーキが倒れてしまわないように

僕はゆっくりと、歩き始めた。

By 従者・セルジュ | Time : 15:00 | CM : 0 | TB : 0
2010.01.03 Sunday


窓から見える景色は一面のピンク…


庭師のアレクさんの気まぐれは
しばらくは論争を呼びそうだけれど。


正直、僕はこっちの雰囲気の方が好きだな…



一年を通して、曇りの日が多いこの地方―

そこに聳え立つ灰色の館エグレッタ・サクラ。


そして、庭一面の青い薔薇…


なんて、ちょっと出来すぎな気がしてしまうのは
僕だけなのかな?


ピンクの庭から漂ってくる薔薇の香りは
心なしか、いつもより優しく感じられる。


片隅に咲いている一本を
こっそり拝借して…


そう、あの人に贈ったら
ちょっと意地悪な笑みを浮かべて



私は赤い薔薇が好きなのよ、セルジュ。



そう言いながらも窓際に飾ってくれるのかな…



…なんて

甘い薔薇の芳香にあてられて
ちょっとだけロマンティックな妄想に浸ってしまう
そんな冬の午後。


By 従者・セルジュ | Time : 15:01 | CM : 0 | TB : 0
2009.12.24 Thursday


今日も、リュシアンさんの姿はない…

いつも誰よりも早く起きて
テキパキと仕事をこなしているのに。

どうしたっていうんだろう…


「カミーユのことが堪えたんでしょう。
 大丈夫だから、今はそっとしておいてあげてちょうだい」

そう言って苦笑するクローディアさん。


カミーユさんのこと…?


そりゃ、僕もすごく悲しかったし
寂しかったし…。

エグレッタ・サクラから、カミーユさんの姿が消えて以来
何か心にポッカリ穴が空いたような気分だけれど…


それにしたって、あの真面目なリュシアンさんが
仕事を放棄するなんて、ありえないよ。


何か…
僕の知らない理由でもあるのかなぁ…




おっと、いけない!
この手紙をパティさんに届けるところだったんだ!


リュシアンさんが復活するまで
僕、頑張ります!
By 従者・セルジュ | Time : 13:33 | CM : 0 | TB : 0
2009.10.02 Friday



もう、今月なんですね…


また一人…
僕にとって大切な人が
この館を去っていく姿を
見送らなくてはいけないんですね…



初めてこの館を訪れた夜は
窓を叩く風の音が怖くて
一人で眠ることすらできませんでした。

そんな僕を気遣って
「私の部屋の窓が壊れてしまって…参ったよ」
なんて下手な言い訳しながら
無理矢理、僕の部屋で一緒に寝てくれた貴方。



僕が失敗をする度に
何とか誤魔化してくれようとして
いつも一緒にリュシアンさに叱られてくれた貴方。


何一つ満足に出来なかった
半人前以下の僕に根気よくつきあい
いつも励ましてくれた貴方。


貴方の幸せは僕の幸せ。


そう、
マリアンヌ様の時と同じように…


この話を聞いた時から
ずっとそう思えるよう努力してきたんだ…


でも…
やっぱり、無理です。


だって…
ほら、今だって去ってしまう貴方のことを
考えただけで涙がこぼれるから…


だから…


ベッドの中では…
ちょっとだけ、泣いても許してもらえますか?
By 従者・セルジュ | Time : 21:09 | CM : 0 | TB : 0
2009.08.07 Friday



「カミーユとヘイリーが…」


そんな…
僕、全然知らなくて、全然気付かなくて…
あぁ、どうしたらいいんだろう!?


カミーユさんもヘイリーさんも、お屋敷を去ってしまうなんて…!


僕、まだ覚えてない仕事があるんです!
だからお二人とも、行かないで下さい!
……なんて、言える訳ないよ…

だって、とても喜ばしいことで、皆さんも祝福していて…
そんな勝手なこと、たとえ冗談でも言っちゃいけないんだと
思ったんだ…


お兄さんのように優しく、ここに来た時から面倒を
よく見てくれたカミーユさん。
お姉さんのように温かく、僕の話し相手となって
くれたヘイリーさん。
おめでとう、ございます。

すごく、ものすごく、涙が出るくらい寂しいけど…
お二人がずっと、幸せでありますように。


うあ、でもやっぱり涙が出てくる…!
こんなところ、誰かに見られたら…




仕事も一段落着いたところだし、ちょっとだけ抜け出そう…




By 従者・セルジュ | Time : 06:38 | CM : 0 | TB : 0
2009.07.21 Tuesday



今日は特に失敗してはならない日…
ヴェルニエ伯爵とアルマンさんがいらしているので、
僕の仕事も心なしか少なめで…
その代わり、エリーズさんが忙しそうにしていました。
手伝おうにも、

「セルジュはいいのよ」

なんて言われてしまったら、またシルバーを
磨くことしか出来ないや。


そういえば、アルマンさんとエグレッタで会うのは初めてです。
前は僕がパピヨンへお遣いに行ってお会いしたので…

皆さんがお話しているのを聞いて知ったのですが、
ヴェルニエ伯爵はアルマンさんの学生時代の先輩なんですって!
すごいなぁ…何十年と経った今、こうして再会して…
積もる話、っていうのもあるのかな?

…僕も、再会出来たらいいな。

あぁ、何でもないです!
気にしないで下さい!

それにしても…アルマンさんや、ヴェルニエ伯爵の
学生時代って、どんな感じだったんだろう。
僕はこうしてお仕えしている身だから、
学校というものがよくわからないんですけど…

いいなぁ…こうして長いお付き合いの先輩や友人が
出来るなんて…
学校ってすごいなぁ。


アルマンさんがお帰りになる少し前に、
時間があったら聞いてみようかな。
……というのは、リュシアンさんがいるところでは無理かも…



さて…磨くシルバーがなくなったら、どうしたらいいんだろう…



By 従者・セルジュ | Time : 12:40 | CM : 0 | TB : 0

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